概要
以前から気になっていた本ですが、ページ数も多く文字もぎっしり詰まっているので躊躇していたのですが、やっと読み終えることができました。
著者
この本の著者であるアダム・グラントはアメリカの心理学者で、1981年生まれの38歳です。
弱冠28歳で学位を取得しペンシルベニア大学で市場最年少の教授になったとても優秀な方です。
3タイプの人間
この本では、人間を3つのタイプに分類し、どのタイプが社会的に成功し、幸福感の高い人生を歩んでいるかを膨大な追跡調査から仮説検証しています。
その分類は、行動の基準が他者に利益をもたらすことにあるgiver(与える人)、自分の利益のみ優先するtaker(奪う人)、give & takeのバランスを取るmatcherの3タイプです。
追跡調査の結果、社会的に最も成功し幸福な人生を歩んでいるのはgiverであるとの結論です。この研究結果で面白いことは最も報われない不幸な人生を歩んでいる人もgiverであることです。
本書の中では、幸福になるgiverと不幸になるgiverの違いも事例を交えて分析しています。
興味のある方は読んでみることをおすすめします。
これから読む方へ
結構文字量が多く、読み終えるまでに時間がかかりました。
読みながら自分や身近な人の顔を思い浮かべて、どのタイプかを想像してしまうので余計に時間がかかります。
しかし、色々なタイプの人の研究事例が丁寧にちりばめられているので、文字量が多いわりに楽しく読み終えることができました。
私のような素人が書評をしても意味がないので、それは専門家に任せるとして、人生後半戦に足を踏み入れこれからのセカンドライフに何か役立てることができないかを自分なり考えてみたのでシェアします。
成功するGiverと報われないGiver
本書の中で成功するGiverと報われないGiverの大きな違いは他者志向であることと自己犠牲的であることの違いにあると結論付けています。
著者の定義では、他者志向とは他者の利益と自己の利益の両方を重視する思考スタイルであり、一方の自己犠牲とは他者の利益を優先するが自分の利益には注意を払わない思考スタイルです。
自己犠牲的なGiverは注意のすべてを他者への貢献に割り振るので、Takerからの搾取に無防備で燃え尽きてしまうそうです。
一方の他者志向のGiverは自分の利益にも注意を払い、他者貢献の時間と自分の為の時間を明確に切り分ける等、自分の利益を守る工夫をしているそうです。
自己犠牲的なGiverは、このような切り分けを行わず請われるがままに支援の手を差し伸べ、自分を蔑ろにした挙句燃え尽きることになると分析しています。
要は、他者への貢献に対して主体的であるか、請われるがままの受動的であるかの違いにあるようです。
Giverは先天的な個性ではない
また本書の最終段では、Giverは個人的・先天的なものでは無く環境、特に所属するコミュニティの価値観で同じ人物がGiverになったりTakerになったりする事があると分析しています。
人間にとって他人に親切にすることは本来気分が良い行為です。
仏教の教えの中にも、次のような言葉があります。
善なる行いをしている人には、今も未来も喜びが伴う (法句経16)
ただこの感覚は所属するコミュニティの価値観により容易に打ち消されてしまいます。
競争原理に立脚した企業組織の中で、善なる意思を守ることは基本的に困難なものと思われます。
突出した利益構造(利権)を有する組織が、組織を維持するために善行を有利な行動とみなす場合にのみ可能な価値ではないかと思います。
若い時期にそのような競争原理の中に身を置くことは、自己成長(能力の拡大)の原動力となり一概に悪いことでは無いと思います。
私のように人生の下り坂を降りる人間にはふさわしい場所ではないようです。
欲を手放し能力を失うことを受け入れる中で幸福を求める生き方
人生の下り坂では、能力は失う前提で考えなければなりません。
体力も気力も衰えていき、出来ることが一つづつ少なくなります。
成長期にはできない事を自覚し、それを克服することで得られる達成感が生きる原動力になっていたようです。
欲にドライブされた生き方から、欲を手放すことで苦しみを遠ざける生き方へのシフトは思っている以上に苦行のようです。
うまく欲を手放すことができずに、衰え行く我が身を惨めに感じるのは受け入れがたいことのようです。
そもそも惨めに感じることは承認欲求が満たされていない心の反応です。その因果を認知する能力が先に衰えることは救いの無い苦行かも知れません。
人に与え、善なるものの中に幸福を求める道が一つの答えのような気がします。